ヴィカス・スワラップ/ぼくと1ルピーの神様

ぼくと1ルピーの神様

ぼくと1ルピーの神様

 このお話は、クイズ番組で10億ルピー(日本円で30億円弱)もの大金を手にした少年が、学校にも通っていなかったことから疑いをかけられ警察に逮捕されたところから始まります。そこに救いの手を差し伸べた弁護士に、なぜ13問もの難問に答えることができたのかを1問1問エピソードを交えて語られます。
 要するにクイズミリオネアをモチーフに、全問正解した問題ひとつひとつに対して、偶然その少年が忘れがたいエピソードを持っていたというお話です。これが実際に起こったのならまだしも、作り話ならどうにでもできるしなぁとかなり冷めた気分が読んでいました、ぶっちゃけ。
 しかし、まず興味を引いたのがインドという国の話。貧困に苦しむ孤児がどのような生活を強いられ、社会がどのようになっているかを個人的には初めて小説という形で読んだ気がします。ただ結構元々抱いていたイメージどおりなので、意図的にインドという国を外交官である作家が海外からみたインド社会のステレオタイプを用いて表現した可能性はあります。要するに結局のところどこまでが真実かはわからないし、エピソードに描かれた日常が実際にはあまり起こらないことかもしれないということです。
 それでも、少年に性的ないたずらをする男性が多いという話や、ある村では女の子が生まれると大人(12歳)になった時に親から売春を強いられ、その家族は売春のお金で暮らしていく習慣がある話などが決して特別なことではないかのような展開はこれがインドか〜と驚きに値するものでした。
 また、単にクイズの答えを知っているエピソードを描くだけかと思ったら、まさにそのエピソードそのものがこの少年の人生とリンクしているというおもしろさ、最近では小説でも書かないような偶然(奇跡)の連続など、華やかではないのに不思議な魅力を感じるようになり、一気に読んでしまいました。インドでは切り離せない宗教的な話もうまく絡めて重くならずに書ききっていた点も(翻訳もよかったのかもしれませんが)よかったと思います。
 2つの重要なオチも冷静に考えれば特別なものではないものの、話をうまくまとめていたと感じさせられますし、作者が暇なときにちょっと思いつきで書いたとは思えない出来でした。ちなみに、映画化されるそうです。