古川日出男/アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

 旅行かばんに忍ばせていた一冊ですが今頃第1部を読み終わりました。オリジナルではなく翻訳本(The Arabian Nightbreedsという無署名で発行所不明の英訳本が底本というのも興味深い)なのですが、古川氏らしい文体と文中の解説が独特の味を出しており、おそらく原作ともかなり異なるエッセンスが注入されているのではないかと思います。一般的な翻訳本にはここまでの注釈は普通入らないので大方の人にはややうるさく感じるのではないかと思いますが、私には許容範囲だったし、むしろ一緒に読み解いているのような雰囲気がありおもしろかったです。
 話自体、まったく予備知識なしに購入したのですが、予想とはまったく違う驚きの展開に、気づいたら一気に読みきっていました。3部構成の文庫本なのでまだ話は一人の妖術王が眠りにつくところまでなのですが、非常に想像を広げさせる興味深い素材に満ちたお話でした。読み始めはアラビア世界の歴史小説の類かと思っていたのですが、話の中心になる「災厄の書」の物語が始まってからは認識が変わりました。魔法世界が舞台なのです。