三崎亜記/失われた町

失われた町

失われた町

 発売日に購入したというのに(当然第1刷)、部屋の一角にある本棚にカバーをつけて積んだまま、早4か月・・・。これだけの良作を見逃していたのは痛恨でした。
 ともかく、三崎氏3作目にしてこれが本当の意味の会心作でしょう。かなり注目されたとなり町戦争 (集英社文庫)も、不条理な設定をまじめにリアルに描いた点に注目し、今後に大きな期待を持たせた作品になりましたが、2作目のバスジャックはやや不発に終わり先行き不安に感じていました。ところがこの作品においては、ある日突然町ごと人が消えるだけでなく、何か事故やトラブルが起こるわけでもなく、しかも消える直前にコンビニなどのビデオカメラを止めて消える瞬間を映さないようにする町の住民が行動するなどという理不尽さ、さらにその町に関わるものは「汚染」されるという理由で管理局という国家組織が消滅した町にかかわる情報を徹底的に回収したり、消滅抗体を持つ人間、分離者という二重人格化と思いきやそのまま2つの個体になる人間がいる世界なのだからすごい。このような不条理極まりない世界を、ラストには少なくとも私はある種の納得と深い感動に近いものを感じさせられたのだから、すごいとしか言いようがない。三崎氏がこの作品を書いている最中には彼の頭の中に、間違いなくこの世界が存在しているのだと感じたし、多くの人がその世界に生き続けている様が私にも伝わってきました。難しい設定は変に説明的な話が増えるなど失敗作が多いのだが、それがない点も筆力の高さを感じさせる。※ちょっと興奮しすぎか... ^^;)
 装丁もよく、代表作(としてまだ世間に認められたわけじゃないですが)としてふさわしい1冊だと思いました。実際世の中には自分の脳内にこの世界が展開できない人も大勢いるでしょうから、そういう人にしてみればヒューマンドラマ的なところだけ評価して作品全体の評価は高くならないでしょう。ともかく次回作も期待大です。となり町戦争の場合、ややもすれば、この理不尽さをコメディと思われてもいいやという感じを受けたのだが、この作品は正面から描き切ったという点で読後感も大変よかったです。