紅玉いづき/ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

 帯に有川氏の「泣きました。」の感想。私も少し読んだだけで、やばい、と感じ、普段2,300ページくらいの本なら電車の中で読んでしまうのですが、これだけでは自宅で一人静かに読みたいと思いました。
 えぇ、泣きました。心が震えて泣けました。幸せな気持ちで泣いてました。まっすぐで美しい心に触れるとこんな気持ちになれるのですね。印象的なイラストの装丁はただの電撃小説大賞<大賞>作品じゃないことを訴えたい出版社の気持ちなんでしょうか。多くの人に目にしてほしい素敵なお話でした。でも、無垢なだけの子供には向いてないかな。
 舞台は夜の森。自分のことをミミズクと呼ぶ少女と夜の魔王が出会います。自分を食べてと魔王に願う少女の言葉は最初、何だ?と疑問に思うものの適当にあしらえるような軽いものと流してしまいました。それが少女のことを理解していくにつれ・・・。そうして、傍目には何ともささやかだけど少女にとってはまぎれもない幸せを得て、間もなく、全く悪意ない正義が不幸を産みます。もうこの辺りに来ると抗えようもない作品の力でクライマックスまで一気読みです。最後は(言わないほうがいいね)、まあ、冒頭に書いたとおりです。
 深い人物背景をいとも簡単に省略し、表現したいシーンだけを綴っていける実力は相当なものだと思いました。会話が多く、細かい情景や感情表現は少なくなっているはずなのに、全く不足感がありませんでした。この物語の構想が高校生の頃にまとめられたという話には驚きでしたが、安易に続きが書けるお話ではないので、ゆっくり時間をかけて(もちろん作家で食える程度に)次回作は新しい世界をまた展開してほしいと思いました。
 ちょうどこういう作品が読みたかったこともありますが、久しぶりにいい作品に出会えました。