森村誠一/喪失

喪失

喪失

 とりあえず最新作の感想はまた別の機会にすることにして、少し前に出たこちらの感想を書きたいと思います。この本も実は棟居(むねすえ)刑事シリーズのひとつで、「喪失」をテーマに7つの短編から構成されています。棟居刑事が登場するとはいえ必ずしも刑事事件が舞台ばかりではなく、サイドストーリー的に展開するお話はおもしろ試みだと思いました。ロマンティック&ミステリーでした。タイトルから考えても楽しいお話になるわけもなかったのですが、どれも形は違うのですが失ったことによる哀しみを感じるよいお話でした。個人的には巻末の作品「地球から逃げた猫」が一番好きでした。長く東京で住んでいるとこんな奇跡のアパートに住んでみたいものです。万一あってもすぐに喪失してしまうんでしょうけど、この現代においては...。
 ところで「世を忍ぶ花」に出てきた『妹』という詩はこのような女性の愛し方もあるのかと大変興味深い内容でしたが、その作者であると文末に脚注されていた「鮎澤すみ絵」という方をネットで探しましたが結局見つけられませんでした。詩や俳句を読むのも久しぶりでしたが、機会があればこの分野の今に触れてみたいと思いました(消極的ですが)。