恩田陸/木洩れ日に泳ぐ魚

木洩れ日に泳ぐ魚

木洩れ日に泳ぐ魚

 恩田さんの最新刊です。前々作の「中庭の出来事」で山本周五郎賞をとり、長編作品としては受賞後の第1作ということになります。毎回高い期待を抱いて読むのですが、この作品は受賞作を基準にすると少々物足りない印象がありました。あくまで高い水準での要求のためであり、どうでもいい作家が書いていたなら褒めることのほうが多かったと思います。物足りないと一番感じたのは展開の意外性が少なかったこと。これまでほぼ全作恩田作品を読んできたことも原因かもしれませんが、2番目が登場人物の心理描写に対する説得力。これは私自身の感受性にも因るものがあるので誰もがそう感じるわけではないと思いますが。
 微妙なネタばれでも作品への影響がありそうなので敢えて内容には詳しく触れないつもりですが、傍目には若い夫婦と思われる男女2人が、登山で一緒に行動していたガイドの男の事故死に対面したという設定で物語は始まります。3人の関係がこの男女2人の間の語りで明らかにされていく、ややミステリー風な仕上がりになっていますが、事件の解明自体は主題ではなく、あくまで二人の関係を紐解くための誘引剤になっているだけです。実際事件の犯人は誰なのか(いるのかいないのか)は早い段階で明らかにされます。もっともその解明(?)は二人の話(記憶)がベースですから真相が何かは最後までクリアにされたとはいえないのですが。
 話の時系列は比較的シンプルに流れているので読みやすいのではないかと思います。全体的にこれまでの恩田作品とはやや作風が違う印象も受けたのですが、どこがとは説明しづらい程度なので気のせいかもしれません。いずれにしても読んでも損に思わないレベルに完成していたと思います。