山口芳宏(よしひろ)/雲上都市の大冒険

雲上都市の大冒険

雲上都市の大冒険

 機上で読んだ1冊です。普段読まない本を、ということで選んだ久しぶりのミステリでしたが、まあ、なんというか、そういうことです。
 この本はミステリ作家の新人賞である鮎川哲也賞の受賞作品です。Amazonの検索によると以前「ゲームクリエイターになりたい!―夢を実現する裏ワザを大公開」の共著として名前を連ねていましたが同姓同名の別人かもしれません。ただ、「ゲーム」というキーワードから、リッジレーサーが精密な物理法則よりもノリを重視したドリフトを見せるのと同様な感覚をこの小説からも受けましたのでたぶん同じ人でしょう。ミステリマニアであれば、是非とも『ゲーム感覚』ということを念頭において寛容な心で読まないと、種明かし後にすっきりしないことでしょう。どこがおかしいと思うかという点もネタばれになるので控えるつもりです。たぶんどこかのサイトで議論されてるかもしれませんし、そういうのは興味無いので。
 ミステリなので基本的に内容に触れるのは控えるつもりですが、二人の探偵が鉱山の街(山の上にあるので表題名がついた)で起こる連続殺人事件を解き明かす(構成としては)本格ミステリものです。登場人物はこの2人に加えて、民事の弁護士だが成り行きで二人の助手をすることになる男の視点で物語は進行します。今後シリーズ化したいという作家の考えが小説の最後にこの助手の言葉を借りて示されてますし、基本的にこの3人が事件を解決する側になります。この本では、座吾朗というなぜか地下牢に閉じ込められている男をキーにして事件は広がりを見せ、不可解な密室での事件、首切り殺人、謎のメッセージ、そして昭和初期という時代など、ともかく、ミステリに定番の設定がたくさん出てきます。鮎川賞の選者から最近はこの手の小説が多いと苦言を漏らしていましたが、確かにそうなんだけど、やはり定番になるだけの魅力があるのも事実です。ただ、それを使った分の評価は落ちてしまうのだから、作者がもっと頑張らないといけないのは間違いないと思います。私も一時期ミステリばかりを夢中になって読んでいたのですが、こういう探偵推理モノは自分の推理の範疇を超えないことが多くて、次第に興味を失い、綾辻氏あたりでダメだと思って以来なので、ほんとに久しぶりです。
 小説の冒頭で、この街の街灯の電球はネジが回る方向が逆なんだが、その理由を問う簡単な謎かけがあるのですが、ほとんど即答ものなのに(簡単な演繹的推理で解答が絞られます)、話の最後まで解答を引っ張るあたり、作者は一般読者の思考力をもう少し高めに設定したほうがいいと思います。この手のミステリでは、例えば、密室事件が起こった! さあ、どういうトリックだっ! と作者が読者に投げかけるわけですが、さすがに最初は情報不足でほとんどわからないものの、探偵が謎を解き明かした瞬間におぉっと思わせることができずに、先に「こうじゃないか?」と思った可能性のひとつに引っ掛かってしまうと大きく評価が落ちてしまいます。それこそが作家の腕の見せ所だし、読者も楽しみにしているところのひとつですから。その点でもこの作品の謎の質はちょっと物足りなかったです。まあ、偶然死体が飛ばされた先が洋館の屋根の上でうまい具合にまたがったなんて真相に比べれば100倍マシですが、現実的にはないなぁとしか思えませんでした。ややネタばれになりますが、工口マンガ好きなら多少推理はスムーズなのではないでしょうか。好きなシチュエーションのひとつだったりするので (^-^*)。いえ、別にそういうサービスシーンが記述されているわけではないので、間違っても期待しないように。すべては想像...(こういうときに絵が描けたらなぁと思います...)
 冒頭に少し書きましたが、今回買った理由はもう一点あって、装丁に描かれたイラストが目を引いたことです。月に浮かぶ謎のモンスター。変な男二人と髪飾りの美しい女。なんか期待できるじゃないですか。帯の惹句もよさげだし*1。まあ、これについては言いたいことはありますがこれから読む人は期待せずに楽しみにしてください(意味不明)。
 ともかく評価すべきは、テンポよく読めるし、すっきりはしないけど、理解はできるという点。今後に期待しておきます。とにかく毎回過去のミステリものをすべてひっくり返すような大傑作がそうそう出ることがないことは読者もわきまえているので、水準以上で量産してもらえたらと思います。

*1:この時、選者の言葉がないことに気付くべきでした。まだまだ推理が甘い>自分