山白朝子/山白朝子短篇集 死者のための音楽 (幽ブックス)

山白朝子短篇集 死者のための音楽 (幽ブックス)

山白朝子短篇集 死者のための音楽 (幽ブックス)

 怪談専門誌「幽」で連載していた短編小説をまとめた本です。別に怪談集ではありません。栞代わりの紐が普通の本で使われているものと違い、女性の髪の毛みたいに黒く長かったのがちょっとだけゾクリときましたが。ともかく、怖くはなくて、哀しい物語が詰まった本です。物語自体はいろいろ感じたものはあるものの普段なら敢えて感想を書く分野の本じゃなかったのですが、第1話めの話は別の観点で記憶に残りました。
 飢饉と病で村中で腐臭に群がる蠅が舞う頃のお話。寺の和尚がある静かな夜にひとりの少女から助けを求められます。その少女は腹に小刀を刺されたままで、父親は賊に殺されてしまったとのこと。幸い娘は一命をとりとめたものの、なんとお腹には子供が。賊に襲われたのかというとそうではなく、産婆の話によると、懐妊しているのも間違いないが「おぼこ」であるのも事実であった。その後、産み落とされた子は知るはずのないことを知る不思議な少年で、成長するにつれ父親の生まれ変わりかと思われた。一方娘は父を殺した男をついに見つけ出し復讐を果たすのだが・・・。
 とまあほとんど話の大半をしゃべってしまいましたが、驚いたのは単に怪談みたいな「不思議なこと」で済ましてしまうだろうと考えていた娘の妊娠が実はそうとは言い切れないという解釈を聞かされた時。実際無理は感じるのですが、可能性はゼロじゃないと思ってしまいました。つまり、ミステリーですよ、この話。ちょっと意外なところで楽しめてしまい、感想を書いてしまいました。