恒川光太郎/秋の牢獄

秋の牢獄

秋の牢獄

 恒川氏の新作*1です。長編が読みたかったのですが、まあそれは次回の楽しみにして、今回の本は、表題とその他2編の計3作品から構成されます。とにかく総ページ数も少ないのであっという間に読めます。
 表題作の「秋の牢獄」は11月7日水曜日が何度も繰り返されるお話。ふとFate ataraxia*2というゲームを思い出しましたが、こちらは記憶以外すべてリセットされるというお話。1日経てば必ずリセットされるとわかっている状況下で人間はどういう行動を起こすのか、なるほど興味深いテーマでした。同じように繰り返す日々に巻き込まれたリプレイヤーたちが時々消えてしまうことがあり、私も最初は運よく翌日の8日に進んだのかと解釈したけれど残っているリプレイヤーが7日に戻った時点でその彼らと全く会わないのもおかしいわけだから、消えていると考えられます。明らかに人間ではない北風伯爵という神か悪魔かわからないものも登場しますが、いずれにしても11月8日に誰も進んだ様子がなく、私だったら消えない限り必ず7日の朝にリセットされるんだと認識した時点で、自分でも何をするかわからない怖さを感じました。物語に出てくる人物は、せいぜい、憎むべき妻を気のすむまで何度も殺す程度のことしかしておらず、ちょっと想像を超える怖さは提供してもらえませんでした。読者が勝手に妄想して怖さを感じるという趣向でしょうか。言わないわけにはいかないので言わせてもらうと、工口が全くなかったのも非常に残念でした。冗談です。
 相変わらず、おもしろい世界と雰囲気は提供してくれるのですが、書けないのか書きたくないのか分りませんが、やっぱり話が短すぎて題材のおもしろさだけで終わってしまった感じ。恒川氏の主観でいいから、もっと掘り下げた展開を読ませて欲しい気がします。とにかく、新しいセンスを感じるホラーでした。帯の惹句は少々褒めすぎな気はしましたけど、悪い出来ではなかったです。

*1:三作目

*2:こちらは4日間を何度も繰り返すTYPE MOON提供の工口ゲー