有川浩(ありかわひろ)/阪急電車

*1■■■■□、愛:♥♥♥♥♡、次回購入意欲:♪♪♪♪♪

阪急電車

阪急電車

 帰国第一弾の感想はこれ。有川さんの作品はどれも好きなんですが、いつもの構成と違って短編連作本っていうんでしょうか、タイトルどおり阪急電車、もう少し詳しく言うと宝塚から西宮北口までの今津線を舞台にしたお話です。もうね、なんかいいお話が満載というか、読んでて顔がほんのり紅潮するくらい、照れと笑いでいい気分になってしまいました。こういうお話って女性しか描けないと思ってましたが、少女の幻想のような甘い恋のお話まで有川さんって書ける人だったんだなぁとちょっと感心すらしながら読み進めてました。あとがきまで読んで、えっ、ほんとに女性だったのと、恥ずかしながら、お名前が『ありかわひろし』ではなく『ありかわひろ』だということに今初めて気が付いた次第。いやいや、そういう名前だけの問題じゃないですね。「塩の街」に始まり図書館戦争シリーズなど、お気に入りの作家としてどんどん読み広げていたのですが、なぜかずっと男性作家だと思ってたのです。この作品のように明らかに女性作家らしい表現がこれまでの作品に出てなかったとは思えないだけに非常に不思議な気がしました。ともかく、誰かに紹介する前に名前の勘違いに気づいたのはラッキー。
 ちょっと脱線しました(電車が舞台だけに)。冒頭に短編連作本と書きましたが、構成もおもしろい。宝塚駅を発車して、ひとつめのラブストーリーが始まり、次の宝塚南口駅では前のお話とオーバーラップしながら、婚約中に寝とられた不幸な女の話に(コメント簡単過ぎですが、実はいい話です)。8つめの駅の終点の西宮北口駅までこうした短編作品が続いたあと、電車は折り返し、第2ステージへ。駅そのものは単に逆走するだけなんですが、今度はすでに登場した主人公たちの第2話が少し時間を経過させて始まります。共通したテーマがあるわけじゃなく、登場人物ごとに明確に違う話になっているのですが、自然な形で他の主人公とも絡んでおり、ひとつの電車の中で多元的に起こる男女のストーリーを駅の発着ごとに部分的にオーバーラップさせながら展開させていくこの手法は想像以上に書くのは大変だったかもしれませんが、こうして上手くまとめられると、ぶつ切れの短編作品になかった、ひとつの共通空間が感じられ、まとまりがありました。
 基本的に長編作品が好きですが、通勤電車の中で読むには正直大変で、だからといって短編は読んだ瞬間は悪くないのですが本自体の印象が薄く大抵すぐに記憶から消えてしまいます。そういう点では、この作品は本として1冊まとめた価値があり、きちんとまとめあげてる点で評価したいと思います。図書館戦争シリーズなど現在注目を浴びている作家のひとりだと思いますが、やはり書く力がありますね。今後もますます応援したいと思います。
(追記)その後(2008年7月号~)、幻冬舎のWEB COMIC「コミックMAGNA」にて、コミック版阪急電車を連載(漫画:村山渉(わたる))。更に2008年11月号の第4話まで掲載後、11月29日発売のコミックバーズ1月号で移籍新連載開始!

*1:久し振りなので評価のつける基準も忘れたし、再度基準を確認。4つが期待どおりの満点。5つが期待をかなり上回ったもの。3つがまあまあ。2つはやや期待外れ、1つはかなりがっかり、0は二度と買わん、です。次回購入意欲は5つで確定で他の人にもお薦めしたいという意向でつけました