吉田修一/さよなら渓谷

話:■■■■■、次回購入意欲:♪♪♪♪♪

さよなら渓谷

さよなら渓谷

 読み終わった今でもタイトルの意味がよくわかっていませんが、作品自体の出来は非常に良かった気がします。プロットがよく考えられており、まず、幼児殺人事件の容疑者として逮捕された母親の里美が、作品の主人公である隣家の夫婦を舞台に引っ張り出すための道具である点も斬新でした。そして、主人公のひとりである俊介が過去に犯した集団レイプ事件が残した深い傷痕。後悔しきれない苦しみの中で努力をしてきた俊介と、屈辱と悲劇の人生を歩むことになった被害者の女性がたどり着いたささやかな幸せを感じることができ、扱いが難しいテーマでありながらよく書けてると思いました。ラストもそういう重い展開から、もっと幸せになれるだろうという期待を持たせる気持ちのよい終わり方でした。
 ストーリー以外にも描写力もなかなかで、夏の蒸し暑さや女の蒸れた汗の匂いが香ってくるような空気感や、俊介の目線が女のむっちりした尻や腰、乳房周辺を無言で追いかけているのも、後に明らかにされるレイプ加害者としての性欲の強さというよりは夏を感じさせる表現としてよく書けていると思いました。肉付きのよい女性が蒸れ蒸れの汗をにじませながら薄着していたら、普通のオッサンでこの目線になってしまうのは本能的に避けがたいことですから。自己弁護じゃなく...