鮎川歩:著者、染谷:イラスト/クイックセーブ&ロード

総評:★★★★★

クイックセーブ&ロード (ガガガ文庫)

クイックセーブ&ロード (ガガガ文庫)

 これはかなりの良作かな。つい先日、3日間時間をリセットすることができる能力者の話を描いた本の感想を書きました。その時はやりたい放題の能力になってしまうからいくつか制限がついてましたが、こちらは文字通りゲーム感覚でセーブしたいと思ったところに戻ってこれるという強力版なのに一見制限も緩い。過去に戻ってもそれまでのことは記憶しているからまさに何度でも自分が望む方向にやり直しができるわけで、それに要する時間も行動を変えたい直前*1でセーブしておけば無駄な行動をすることなく無限に繰り返すことができる。まあ制限が緩いとは書きましたけど、ネックはそのセーブポイントに戻る方法というのが死ぬこと。当然自然に死ぬのを待ってられないので主人公は自殺をするわけです。最初その能力に気づいたのはもちろん不慮の死。それがすぐに繰り返され記憶に残った違和感からそれが自分に何故か備わった能力だと気づきます。死ぬ瞬間に自分がつぶれていく状態を冷静に描写していくところなど、久しぶりに式貴士氏の作品を思い出させる内容でした。もっとも快楽を感じるところまでは到達してないようでしたけどw。で、ガガガ文庫によくある、ちょいグロな描写が最初数回続くわけですが、主人公も馴れきったというか、くだらない理由で何度もやり直している様子。そのたびに毎回死の瞬間を味わっているかと思うとどういう心理状態なんだと思います。いつもきれいに死ねるわけじゃないだろうに、なんて思ってると死に損ねて悲惨な状態に陥るシーンもあったりと、かなり強烈。ある深刻な事件が進行していて、自分のためではない衝動とはいえ、5,6階から飛び降りたのに途中にポールに当たるなどして死に損ね、骨が折れて皮膚から突き出た状態も気にせず自分の頭がつぶれて死ぬまで何度も何度も地面にたたきつけてる様は壮絶で圧巻っ。こういう死の扱いは良くも悪くも最近なかったので新鮮でした。ただこれは単なる作品の味付けであって、メインストーリーがおもしろかったのが高く評価した理由です。最大の制限はセーブポイントが無限ではないということでしょうか。
 作品の開始早々、主人公榊潔人(さかききよと)がいつものように高所から飛び込んで落ちている最中、なんと同じように飛び込んで地面に激突しようとしている女の子の姿が!? しかも死の寸前に見た彼女の顔は幼なじみの梓由衣(あずさゆい)! なかなかのつかみ*2だと感心しつつ、話が進むにつれ見えてきたのが、現在世間を騒がしている猟奇殺人事件「眼球抉り(えぐり)」と彼女との関係・・・。彼女の自殺原因が明らかになっていくのと、この事件の全貌が見えてくるのが非常にいい感じにミックスされてて、推理モノとしてもおもしろい出来でした。潔人が副会長をつとめる超能力研究会の会長 常磐先輩(♀)の常人離れした洞察力と推理センスを認めているにもかかわらず、最後まで事件解決の助けを求めなかった点など納得しづらい部分もありましたが、考えが浅くて問題を起こすものの馬鹿すぎないところで踏ん張っている主人公が好感持てたのは一番良かった点かもしれません。その途中から常盤先輩の助けを求めなくなる理由もあの状況から二度と巻き込みたくないと思った気持ちからだと理解できなくはないんですけど、やはり浅はかじゃないかと。一人だと不安だなぁと思ってたら案の定、大失態をやらかすし、もうあれしかないんじゃ?と思ってたら・・・。
 ある意味、先がそこそこ読める展開ではあったのですが、結局それが一番おもしろい話の流れであったので何の問題もありませんでした。殺伐とした雰囲気で始まった作品でしたが、途中からの彼の必死の行動(方法は自殺することとはいえ)には熱いものを感じました。ラストまで書ききった感があったと思います。ということで次の新作(さすがにこの作品は続けないでしょう)も楽しみにしたいと思います。

*1:一度失敗してやり直した後なら一番良いタイミングがわかっているのでできること

*2:自殺の話をそういう軽く捉えるのもどうかと思いますが