監督:是枝裕和、主演:ペ・ドゥナ、原作:業田良家/空気人形

総評:★★★★★

 帰国後、眠れそうにないのでレイトショーで観てきました。基本的なあらすじは予告や公式HPに任せるとして感想だけ。原作は多分未読ですが業田氏の作品は多数読んでいましたので、実際映画からもそのテイストはよく感じ取れました。映画は原作と全く同じではないそうなので機会があれば原作も読んでみたいと思います。
 観てる最中に多くのメッセージを受け取りましたが最後に強く残ったのは哀しみ。アルバイト先のレンタルビデオ屋で、ある日腕を破いてしまい、空気が抜けていくのを恋心を抱いていた従業員の順一に見られてしまう事故が起こります。それまで空気人形だと知らなかった順一は一瞬驚いた表情を見せるものの、すぐに破れた部分をテープで留めて、おへそから懸命に空気を入れるのですが、このシーンはほんとに素晴らしかったです*1。好きなひとの息で膨らませてもらう空気人形の気持ちを想像すると、エロスだけでなく感動的でもありました。この印象的なシーンが伏線となってるからこそ、この後に起こった事件はなんともいえない気持ちになりました。彼女にしてみればこれが自分の受けた最大級の愛を感じる行為だったわけですから…。
 最初は、持ち主である秀雄に愛情を持って扱われていたからこそ彼女が心を持ったのかと思っていましたが、それは間違った解釈だと思うようになりました。なぜかわからないけど心を持ってしまった、そんな彼女が偶然知り合った男性を好きになる。でも帰宅先では性欲処理道具として扱われる毎日。秀雄に彼女が心をもってしまったことがばれるシーンがあるのですがそこでの秀雄の言葉は全く納得できるものでした。悪い意味はなく、心を必要としていないからこそ人形を求める人だっていることは理解できますので。彼女もそれを感じるからこそ外に自分の居場所を探し、そこに居た自分と似た空虚な雰囲気を持つ男性を好きになったんでしょう。ただ最後まで彼女の心が空気人形という器に縛られているのは哀しかった。破れれば空気は抜けるし、影に映る姿には中身が入ってない、否定しようもない空気人形としての自分。心がいくら自由でも結局器から逃げ出せない現実。それはわかるけどどうにかならないものかと思う中で見せられたラストシーンで、廃棄物と一緒に横たわる彼女を美しいと言わせた演出は少しだけ救われました。

 ちなみにこの空気人形のお値段、映画では確か5980円と言ってたような記憶があります。オナホ込みでこのくらいの顔付きでもこんな値段で買える時代なんだなぁと観ながら考えてました。昔は空気人形の顔なんて笑わせようとしてるとしか思えない作りだったんですがね〜*2。映画では秀雄が最後のほうで新しい人形を買ってましたがあれは高そうでした。その秀雄ですが普段はファミレスの店員をやってるのですが、ミスをしてシェフに激しく怒られている最中でもへらへらと笑い、帰宅したら空気人形に語りかけ、一緒に食事。使ってる最中には電気を消し、終わると風呂場でオナホを綺麗に洗ってから就寝する毎日。単に原作通りの表現なのかもしれませんが、仕事が満足にできない人間だから、みたいな扱いで空気人形の愛用者を印象づけてる演出をしてるとするなら残念。へらへらするシーンからも心がもろい人間像だという推測もできるのですが、空気人形の名前にしたノゾミという名の女性と秀雄とのサブストーリーでもう少し掘り下げて欲しかったかも。もちろん秀雄にスポットがあたってる作品ではないので蛇足的ではありますが。
 実のところ、監督も役者も撮影監督も知らない人ばかりだったんですが、記憶に残る作品だったと思いました。R15なのも妥当かな。

*1:一応公式でもこのシーンの話が少し出ているので重要シーンですがネタバレではないと判断

*2:残念ながら買おうと思ったこともありませんが