重松清/カシオペアの丘で(下)

カシオペアの丘で(下)

カシオペアの丘で(下)

 美しく幸せな物語でした。こうして感想を書いている今も静かに涙が溢れてくるのですが哀しみではなく確かな幸せを最期に分け与えてもらった気がします。多くの苦しみと後悔は、シュンの命が透き通るように消えていくのとリンクするように昇華されていきます。そうした心が救われる瞬間がしっかりと描かれており、一読者であることも忘れ、よかったなぁという喜びで涙がこぼれました。私には一生取り戻せそうにない友、得られそうにない幸せに、寂しさは感じなくもないのですが・・・。
 下巻は結局電車の中で読んだのは一部だけでそのまま帰宅して読みきってしまいました。ちょっと泣きそうだったというのもあるのですが、ちゃんと向かいあって一人の空間で読みたいという気持ちになったからです。映画や音楽もライブで観たり聴いたりするのは好きなのですが、一人になると感情が解放され情景も強く浮かびますから。
 矛盾するようですが決して幸せな話ではありません。しかし多くの幸せを感じることができた小説でした。美しく穏やかに息を引き取ったシュンも病気による痛みがなかったわけじゃないし、強くなったように見えても、残された恵理が夫の闘病中やその後の人生で苦しまなかったはずがない。でも、作品の中でトシが洩らした言葉のとおり、シュンには勝てない。私もこのまま生き続ければ必ず周りを不幸する。こんな風に死ねる人生がうらやましい、そんな幸せな物語でした。