六塚光(むつづかあきら):著者、CH@R(ちゃあ):イラスト/Le;0 -灰とリヴァイアサン-

総評:★★★★☆

Le;O-灰とリヴァイアサン- (一迅社文庫)

Le;O-灰とリヴァイアサン- (一迅社文庫)

 地球の地軸がずれて100年。かつての日本の面影はなく上昇した海面下に国土の多くが水没し、現在は何千という島々から成る連合体が形成されている。そこには、海獣リヴァイアサン)と呼ばれる文字通り海の怪獣が出没するようになり人々を苦しめたが、一方でその海獣に対抗するように突如人の中から吸血鬼が生まれた。吸血鬼は日光、十字架、ニンニクなどの弱点を持ち、人はそれらを使って吸血鬼をコントロール海獣から自分たちの身を守った。夜に戦ったのでは勝てる見込みもない海獣たちは吸血鬼の苦手な日中にだけ出没するようになり、勝ちはしても灰になるのを避けられない状況となる。そんな状態から再び吸血鬼として蘇らせる者は転生師(リサイクラー)と呼ばれた。この作品はそんな彼らのバランスで成り立つ世界のお話。
 読み始めは、また吸血鬼の話かと少し食傷気味に感じたのですが、こんな感じでアレンジされた人と吸血鬼との共存世界というのは興味深く読むことが出来ました。連合は自分たちの勢力を伸ばそうと働きかけてくるが、自分たちの島の資源を好きにされるのが嫌な島民たちは連合の力を借りずに海獣の脅威に立ち向かう力、すなわち吸血鬼を確保しないといけない。突然変異で生まれる吸血鬼をたくさんかかえる島は多くなく、しかも一度灰になると転生に5日ほどの時間を要するため、海獣の出没が頻繁になると独立を続けることが困難になる。そういうパワーバランスがうまく働いていて、そこに切り札とも言える転生術を持つ主人公 顕九郎が現れ、島は新展開を迎える。吸血鬼の弱点を改善し、いつでも海獣に対抗できるようにしたいが、弱点がなくなってしまっては吸血鬼をコントロールできなくなってしまう。こういうバランス感覚のある話が描ける作家はなかなか今後が楽しみです。